2012年7月30日月曜日

今朝、G+での共有から、アゴラの記事を久しぶりに読んだ。
松本 徹三 氏の、日本の半導体産業は何処へ?だ。

この方、以前から発言を追っていると、
「面白い論調だな。さすが経験有る経営者だ。」と思うこともあれば、
「年を取るっていうのはこういう事か」と思ったり、「ちょっと強引過ぎるでしょう」と思ったりすることもあった。

今回は、後者です。

いきなり引用から入りますが、
ここで注目すべきは、クアルコムやブロードコムを始めとして、高性能のNPUで躍進が期待されているNVIDIAなどの新興のチップベンダーは、何れも製造設備を持たないファブレス会社であるという事だ。つまり、巨額の売り上げを誇るインテル、サムスンの二大ベンダー以外は、製造に特化したファウンドリーに製造を委託するのが一つの時流になっているという事である。動きの激しい最先端の高機能チップの分野で特にこの傾向が顕著なのは、開発者がその為の製造施設まで自力で作ろうとしたら、時間もかかり過ぎるし、リスクも過大になる事がよく理解されていからだろう。
ちょっと、無理のある意見じゃないだろうか。
確かに、ファブレス化というのは、以前よりも有力な選択肢として成長していることは事実ですが、3位以下を大きく引き離すトップ2が、自社製造設備を相当量持っている中で、それが時流と言うのは強引過ぎやしませんか。

確かに、この行を読み解くことが、日本の半導体産業が衰退していった要因を明らかにするのではないかと私も考えます。
なので、私なりにそこを掘り起こしてみたいと思います。



一つ目の論点は、「合併」だと思います。


松本氏は
日立とNECのDRAM部門がエルピーダメモリを作り、日立と三菱がルネサステクノロジーを作り、これに後にNECも参画した事についても、社内での勢力争いや不毛な議論の多発を例に挙げて「組織の併合自体が間違いだった」と決め付ける人達もいる様だが、それでは、「この様な合併なしに、各社はどのような将来像が描けたのか」と問えば、誰も答えられない。私に言わせれば、この様な合併や統合はむしろ遅すぎたのであり、社内で勢力争いが絶えない等という事は、単なるガバナンス能力の欠如に他ならない。
と仰っています。
私自身はタラレバの話をするつもりはないですが、「組織の併合事態が間違いだった」と決め付けはしないですが、私としてエルピーダやルネサステクノロジーの二社の、合併のやり方、その後の進め方(いわゆるPMI)に疑問が多く有ることは事実です。

疑問点は、そんな事は無いとは分かっていますが、わかりやすく言うと「くっつけただけで生き残ろうというのは甘いのではないか?」ということです。
もっと、本質に迫りたいので、言い方を変えると、
「日本企業は、『雇用を守る』とかカッコつける割に、会社が衰退して総倒れとか一番カッコ悪くて、誰も救えない選択、意思決定をしてしまうのは何故なんだろうか」
ということですね。

PMIについては、松本氏は
これに加えて、日本の企業文化のもう一つの問題として、伝統的な「親分子分システム」がある。組織の長は部下に絶対服従を求める見返りに、部下の将来の栄達を保証しなければならない。子分達は、どうすれば親分の社内での勢力が強くなるかに腐心し、親分は、自分が組織のトップになれば、かつての子分達がその組織の中で幅を利かす事が出来る様に配慮する。つまり、上も下も、能力による適材適所の人事よりも、仲間内の利害を優先してしまう傾向があるのだ。

だからこそ、他社との合併などは、よほど追い詰められない限りは、彼等の眼中には入らない。そして、大規模な合併や組織統合があった時は、その組織のトップに誰が座るかを含め、「取り敢えずの人事」に関係者の全ての精力が傾注される。
と仰っていますが、この部分に関しては同意です。

他にも疑問点はありますが、本日は割愛させて頂きます。



二つ目の論点は、「戦略」だと思います。


ビジネスにおける戦略論は、戦争における戦略論を多数引用しながら成熟してきていることは、ある程度、経営戦略を知っている人であれば一般的な事実だと思います。
それは、都合がいいから引用したのではなく、やはりビジネスもある意味で戦いなのだと思います。

戦いにおいて、最終目標は制覇となることは自明です。もちろん合理的な選択により、同盟関係などを維持して、内政に専念する場面も有るとは思いますが、基本的に外部との関係は相手を制服し、領土を拡大することだと思っています。
つまり、ビジネスにおいては、マーケットシェアをより高い水準に持っていくため、自分達が成長するだけではなく、相手を倒す必要があります。日本企業にはそれが足りないと思っています。

松本氏は、
これを阻んだのは、結局は「日本の企業文化」だったような気がする。即ち、みんなが「横並び」を志向し、結果として「誰も突出した利益は上げられそうにはない」のに、「自前で何もかもやりたがる(他社に遅れたくはない)」という現象が癌だったと思えてならない。「突出した利益」がなければ大規模な投資は不可能になり、その上何でも自前でやろうとすれば、国際的競争力を維持する事などは夢のまた夢となるのは自明の理なのに、誰もその流れを断ち切ろうとはしなかった。
と述べていますが、ほぼ同意です。
敢えて付け加えるとすれば、「自前で何もかもやりたがる」というのに加え、「他国の傘下に下ることは許されない(ファウンドリーの道を選ぼうとしない)」ということでしょうか。

「エルピーダやルネサステクノロジーがファウンドリーになれば良かったのに」という意見では有りません。その可能性をどれだけ真剣に議論したであろうか。という疑問です。

日本企業は、あるマーケットを設定して、そこを制覇するような戦略を立てている企業は非常に稀です。(逆に利益率が二桁に到達している企業はそれができていることが多いです)

上述のような「雇用を守るために企業を生き存えさせる」とか、「日本の製造業のプライドに掛けて」とか、「メーカーの威信をかけて」とか、1銭も利益に貢献しないようなことで戦略を決めているとしたら、この状態は容易に予想でき、今後の結末も。。。




三つ目の論点は、「スピード」だと思います。


概して、日本企業はスピード感に欠けます。理由は様々であるものの、とにかく遅い。

昨今の途轍もない市場変化のスピードに対応している(正直知らないが私から見ての)日本企業として一つの例は、サイバーエージェントだ。知っている限りの情報なので、指摘していただけると嬉しいのだが、彼らの企業の中では、様々な新規サービスのアイデアが質とサービス開始のスピードを競っていると聞いている。
また、業界として見ると、ゲーム業界だろう。シリーズモノのゲームであれば、開発チームは複数存在し、それぞれのチームが五月雨式にリリースに向けた開発を進める。

上記2つの例に於いて、少なくとも社内では、「~チームが開発したサービス・作品の方が売れ行きが好調だ」とか、「~チームが開発したサービス・作品の方がユーザーから好評価を得ている」というような競争意識が芽生えるだろう。

典型的な日本企業、特に製造業においては、上記のようなことをイメージすることは難しい。

ここで、松本氏の意見を引用すると、
製造部門は外国企業に任せてしまうのだから、経営体制はそれですっきりするだろうが、設計・開発部門の統合は、前述したような「日本の企業文化」が原因となって、なかなか上手く進まないのではないかという危惧が拭えない。お互いに角を突き合わせていては何も前に進まないのは勿論だが、逆に、お互いに遠慮し合い、お互いの顔を立てあうような事ばかりしていても、世界での競争にはとても勝てるとは思えない。
上述の私の意見からすると、真逆とも言える意見だと思う。
企業の強さを決める主要な部門であれば、複数のチームを競争させ、勝ち上がったチームがその企業を代表するチームだと言えば良いと思うが、松本氏は主要な部門だという設計・開発部門を統合させるためにどうするか?と思考しているようだ。
まず、なぜ統合しなければならないのか?という議論が為されるべきではないかと思う。


以上、色々思うことが溜まっていて、それがこの記事を批判することで出せそうだ、という理由でたっぷり書いてしまいました。
お粗末さまでした。


蛇足だが、今回の論旨とは全く関係ないが気になる内容が有ったので挙げておく。
敗戦で全てを失った直後の日本人は、失うものが何もなかった。だから、「自分がこれと思い込んだ事は何が何でもやり遂げる」という気迫があった。しかし、日本がある程度の成功を収めた後は、その立役者だった大企業では世代交代が進み、社内のトーナメント戦を着実に勝ち抜いてきた新しい経営者は、「諸先輩が築き上げてきたものを守る」という防衛本能に捉われているかのようだ。だから、ひたすら「批判」を恐れ、「衝突」を恐れ、「リスク」を恐れるのではないだろうか?
間もなく終戦記念日というのに、誠に申し訳ないのだが、今年が終戦後何年なのか分かっていない我々世代に、「敗戦で~」を語られても、身にしみないのです。
同じ戦いに負ける比喩をするのなら、第二次世界大戦ではなく、ビジネスでの敗戦を挙げてもらいたい。それがこの半導体産業になるかもしれないですが。。。

加えて、新しい経営者は云々の行ですが、これもその敗戦経験者が、若い世代(もう若くないですが、彼らの下の世代)の意見を閉ざすような物言いで、自分達が何かを成し遂げた物言いで環境変化に適合しようとする様を批難した結果がこうである可能性もあると、私は思っています。
高度経済成長期は、その市場環境が、失敗を失敗に見えなくするだけの外部環境が整っていたり、リスクを無視しても影響が無かったとも言えます。
もちろん素晴らしい経営者も多くいらっしゃいますが、その経営者が今の経済環境、市場環境において同じように成功できるかどうかは別の話だと思っています。

重要なのは、昔どうだったとか、日本企業の文化とか、そういう事に逃げずに、今、何をするべきかじゃないかと思います。

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